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5 三国演義(全6巻) 安能 務
講談社
 安能 務という方は、中国史を語らせたら右に出る者のいない、当代随一の研究家だと思っています。とにかく歴史の捉え方が、他の方々とはちょっと違う。そして、その違った捉え方が実に秀逸で、論調もまさに立て板に水。
 その安能先生が三国志演義を読み物にしたというので、さっそく読みました。三国志では特に諸葛孔明のファンで、これまでに読んだ三国志関連書籍は100を下りませんが、おそらく、個々の登場人物の考え方や、行動規範のようなものは、安能先生が書かれたようなことだったのだろうなあ、とつくづく納得できる内容です。
 ちなみに、安能先生にいわせれば(おそらく、多くの歴史学者の評価でもあるのでしょうが)、孔明は三流です。通常、孔明は神がかり的な活躍をするのですが、それが安能先生の三国演義の中では、青二才になってしまうのです(ちょっと不愉快)。
 まあ、それはともかくとして、登場人物の多くが、これまでの三国志もので語られていた人物設定とは微妙に違いがあって、とてもよくできています。孔明を名軍師として崇める三国志があっても当然よいのですが、一方で、より客観的にその時代背景や民族性などを分析した上での登場人物の性格づけがなされた、このような解釈の三国志ものの存在は、とても重要だと感じました。
6 陰陽師 鳳凰の巻 夢枕 獏
文藝春秋
 この作品が定番かどうかは、正直いって疑問です(挙げといて何言ってんだ、と怒らないでください)。ただ、陰陽師・安倍晴明シリーズは、半永久的に続いてほしいなあと思っています。ですから、これは「シリーズ」として続くことを前提とした定番候補です。
 つまり、夢枕 獏が、このシリーズを書きつづける限り、これはできれば定番として残したい。
 お話しの展開はいたって単純です。たとえば、ある女が、ある男に振られたけど男のことがあきらめきれず、鬼になってしまう。そして、その鬼を安倍晴明が退治する、というものです。でも、その単純なストーリーの中、人の情念について考えさせる部分があって、それってやはり、どの時代のどんな人が読んでも、意味のあるもののような気がします。
 「ああ、人はこうして鬼になるのだなあ」と。この場合の鬼は、情念の塊、といったようなニュアンスなんですよね。古くは「阿部定」や、最近では「奈良長女毒殺未遂事件」の犯人なんかも、ある意味で情念によって鬼と化した人々ですよね。
7 マンハッタンの怪人 F.フォーサイス
角川書店
 これは、フォーサイスの作品だというだけで、定番入りです。ただ、これまでのフォーサイスの作品と比較すると、ボルテージは若干下がっています。そもそもフォーサイスの真骨頂は世界政治の裏側を「なるほどこんなことがあっても不思議じゃないね」というくらいのリアリティをもって描き切る筆力にあると思っています。しかも、まったく異なる場面 での、一見異質な行動がひとつのポイントに収斂していく様が、実に巧みで絶妙です。
 しかし、この作品に関してはテーマも書きっぷりもちょっと違います。タイトルから想像できるとおり、ベースはオペラ座の怪人です。そのオペラ座の怪人が実は死んでおらず、マンハッタンで大富豪にのし上がっていくというストーリーなのですが、この作品、あえてカテゴライズすると、どうも恋愛小説なんですよ。どっちかというとジェフリー・アーチャー風の作品です。
 でも、そこここにフォーサイスの“味”が堪能できます。何しろ、彼が断筆を宣言した時、目の前が真っ暗になってしまったファンの一人としては、彼の筆になる作品、というだけで、やはり定番入りは当然なんです。

8 ザ・ゴール エリヤフ・ゴールドラット
ダイヤモンド社
 その昔、中国の三国時代には、多くの英傑たちが時代のうねりの中で、己の存在意義を賭けた戦いを繰り広げていました。
 この時代の歴史を正史としてまとめたのが、かの有名な三国志です。この三国志は紀伝体といわれる編纂方法をとっているため、あまり読みやすい本ではありません。そして、その三国志を読み物、物語として再編集したものが三国志演義といわれるものです。われわれが日常、「“三国志”って面白いね」という時の三国志は、実はこの三国志演義を指していることが多いのです。
 この三国志演義の中によく出てくるシーンで、舌戦があります。やさしくいえば「口喧嘩」です。大きくは、合戦の前に、敵と味方の大将同士が、自軍の正当性を滔々と語るようなものから、敵国へ何らかの交渉ごとを遂行するために出向いていった使者が、時に敵国の人間と論戦を張るようなものまで、いろいろあります。
 この舌戦のうち、難しい交渉ごとに出向いた使者に対して、その使者の知識レベルを試すために、いろいろな議論を吹っかけるようなことが多々あります。
 「貴様の国には大した人物はおらんようだな。わが国が××の政策とるのは、深い策略があってのこと。まったく貴様のように兵法を知らん奴とは話にならん! とっとと失せろ!」
 「はっはっはっはっは!」
 「何を笑うか、匹夫め」
 「わが国では、その程度の兵法など、市中の幼子でも知っておるわ」
 というような次第です。
 実は、この「わが国では、その程度のことは、子供でも知っているわ」という殺し文句が、三国志なんかでは非常に多いです。

 いやあ、なんとも長い前フリでしたが、今回取り上げた「ザ・ゴール」は、キャッチコピーが秀逸です。「日本で出版されると、世界経済が破滅してしまう!? これまで翻訳が許可されなかった、いわくつきの一冊。」ときたもんだ。
 いわんとするところは、「非常に優れた(生産管理の)ノウハウなので、これを日本人に知られてしまうと、彼らはそのノウハウを上手に取り入れて、世界経済を席捲してしまうだろう」ということなのでしょう。だから、「日本人には読ませたくなかった」と。
 そんなキャッチコピーに騙されて、期待に胸ふくらませて読んだのですが・・・。
 まあ、面白かったです。よくできています。テーマになっているTOCですか、確かに概略はよくわかりました。でも、それって、そんなに凄いことなんですか?
 一言いいたい、「はっはっはっは! その程度のこと、わが国では子供でもやっているわ!!」

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